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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)5259号 判決 1994年8月26日

原告

石川昭二

被告

岡本勝

主文

一  被告は、原告に対し、金八九万九一四〇円及びこれに対する平成三年八月五日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その六を原告、その余を被告の負担とする。

四  この請求は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金六四四万五一八〇円及びこれに対する平成三年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原動機付自転車と自動二輪車の衝突事故において、原動機付自転車の運転者が受傷したとして、民法七〇九条に基づき、自動二輪車の運転者に対して、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者に争いがない事実及び証拠上容易に認められる事実(証拠によつて認定した事実は証拠適示する。)

1  原告は、平成三年八月四日午後八時二五分頃、大阪市東住吉区東田辺二―一―一先路上の信号機のある交差点において、原動機付自転車(大阪市東住つ一五一六)(原告車両)を運転して、西かせ南に向かつて右折を開始したところ、東から西に対向して直進中の被告運転の自動二輪車(なにわも四三七三)(被告車両)と衝突した(事故態様及び双方の進行方向について甲二、乙二、乙八、原告及び被告各本人尋問の結果)(本件事故)。

2  原告は、本件事故により、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、左鎖骨骨折、左第五中足骨骨折の傷害により、同年八月四日東住吉森本病院に通院、同月五日より同年九月一四日まで四一日間同病院に入院し、そのうち同年八月五日から同年九月一〇日までの間、左足をギプスで固定し、また、同年八月二八日、左鎖骨骨折に対して、観血的整復固定術を施行し、同年九月一五日より平成四年一〇月二四日まで(実通院日数九九日)同病院に通院した(甲三ないし六、原告本人尋問の結果)。

3  原告は、本件事故による損害の填補として、自賠責保険から九六万円の支払を受けた。

二  争点

1  被告の過失責任

(一) 原告主張

本件事故は、原告車両の対面信号が右折可青矢印、被告車両の対面信号が赤の際に起こつたものであるから、被告には赤信号無視の過失がある。

仮に、本件事故が両車両の対面信号が両方とも青の際に起こつたものであつたとしても、被告には、時速二〇キロメートルを下らない速度違反、前方不注視の過失があつた。

(二) 被告主張

本件事故の際、被告車両の対面信号は青であつたから、被告には赤信号無視の過失はなく、また、速度違反の過失はない。本件事故は、右折待機中の他の乗用車の左横から原告車両が急右折したものであるから、被告には予測することができず、被告には前方不注視の過失もない。

2  休業損害

(一) 原告主張

原告は建築業(大工)で、自宅を連絡所としており、収入は六一歳の男子の平均月収三〇万八一〇〇円を下らなかつたものであり、前記入通院の全期間である四四八日間休業を余儀なくされたものであるから、休業損害の額は左のとおりとなる。

三〇万八一〇〇円÷三〇×四四八=四六〇万〇九六〇円

(二) 被告主張

争う。被告は大工として稼働していたとするがその実態は不明であり、退院後の通院も経過観察に過ぎないから、労働能力に影響した期間は五か月を限度とすべきである。

2  その他、損害一般

3  過失相殺

(一) 被告主張

前記主張の事故態様からすると、仮に被告に何等かの過失があつたとしても、原告の過失は八〇パーセントを下るものではない。

(二) 原告主張

争う。前記主張のとおり、本件事故は、被告の赤信号無視という一方的過失により発生したものであるから、原告に過失はない。仮に、被告側の信号も青であつたとしても、被告には前記のとおり、時速約二〇キロメートルを超える速度違反があつたものであるから、原告の過失はあつたとしても二割未満である。

第三争点に対する判断

一  休業損害

前記認定の治療経過に、甲三ないし六、八、乙三の一ないし一一、乙四の一ないし二二、乙五の一ないし二二、原告本人尋問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。

原告(昭和五年三月一日生)は、本件事故当時六一歳の健康な男子であつて、妻と五人の子と同居していたが、自営で大工として稼働し、子らのアルバイト収入と合わせて、家族を養つていた。原告の平成元年分の申告所得額は一二〇万円であったが、これは申告を免れたものであつて、それを超える収入があつた。

原告は、本件事故によつて、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、左鎖骨骨折、左第五中足骨骨折の傷害により、平成三年八月四日東住吉森本病院に通院、同月五日より同年九月一四日まで四一日間同病院に入院し、その間平成三年八月五日から同年九月一〇日までの間、左足をギプスで固定し、また、同年八月二八日、左鎖骨骨折に対して、観血的整復固定術を施行し、同年九月一五日より平成四年一〇月二四日まで(実通院日数九九日)同病院に通院し、左肩関節の可動域制限に対するリハビリ、抗痙攣剤の投与、脳波の経過観察等の治療を受け、同年一一月九日たちくらみを訴えたが、平成四年一月一八日以降の脳波の異常は認められず、同年二月二九日時点で左鎖骨骨折の骨癒合は良好であつたが、ある程度左肩の可動域制限は残つており、(屈曲一五〇度、外転一〇〇度)、その後少しずつ軽快し、同年一〇月二四日症状固定したところ、その際の原告の自覚症状としては頭痛及び左肩痛がある程度で、神経学的には明らかな異常所見なく、脳波の異常も認められず、他に明確な他覚的所見はなかつた。また、原告自身、退院後いつから大工としての稼働を再開したかの明確な記憶を有していない。

原告の本件事故前後の稼働状況、症状の経過、特に原告の傷害の程度は軽微ではなく、頭部外傷の関係であるからある程度の経過観察は不可欠であること、左肩関節の機能障害が残存していたこと等を総合考慮すると、原告は、本件事故前は、原告主張の収入の約七割である一日あたり七〇〇〇円の収入を得ており、その稼働能力は、本件事故によつて、本件事故後一五〇日間は一〇〇パーセント、それ以降症状固定日までの二九八日間は平均して五〇パーセント喪失したと認めるのが相当であり、その額は、左のとおりとなる。

七〇〇〇円×一五〇+七〇〇〇円÷二×二九八=二〇九万三〇〇〇円

二  その他の損害

1  治療費 四五万五六五〇円(原告主張同額)

甲四、五によつて認めることができる。

2  入院雑費 四万九二〇〇円(原告主張同額)

原告は、前記のとおり本件事故によつて四一日間入院したところ、一日当たりの雑費としては少なくとも原告主張の一二〇〇円は必要であつたと認められるから、右のとおりとなる。

3  入通院慰藉料 一八〇万円(原告主張二〇〇万円)

前記認定の入通院の経過からすると、右金額をもつて相当と認める。

4  損害合計 四三九万七八五〇円

三  過失相殺

1  本件事故の態様

(一) 前記認定の事故態様に、甲二、乙一、二、乙六の一〇ないし一五、乙八、証人石川の証言、原告及び被告(第一、第二回)各本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、東西道路と南北道路の交わる、信号機によつて規制されている十字型交差点(本件交差点)であつて、東西道路は、歩車道の区別がある片側二車線の道路であった。交通量は頻繁であつて、実況見分時の交通量は、三分間に東西方向が七九台、南北方向が六八台であつた。本件事故現場附近はアスフアルトで舗装されており、路面は平坦で、本件事故当時乾燥しており、速度は時速六〇キロメートルに規制されていた。

原告は、平成三年八月四日午後八時二五分頃、本件道路東行走行車線を、原告車両を運転して、西から東に向かつて進行していたところ、別紙図面<1>附近で、右折するため追越車線に進入しそのまま進行したが、前方に対向直進車待ちの右折待機車両が停車していたので、その左側である同図面<2>附近まで進行し、一時停車したが、対面信号が青であつて対向直進車はありうるのに、充分な注意をせず、ゆつくり進行を開始したところ、同図面<4>附近の原告車両の左側面と同図面<1>附近の被告車両の前部とが同図面<×>で衝突し、原告車両は同図面<5>附近に転倒した。なお、原告は衝突時まで、被告車両に一切気付かなかつた。

被告は、本件道路西行走行車線を、被告車両を運転して、同図面<イ>附近を東から西に向かつて進行していたところ、対面信号が青であつたので、一切右折車の存否、動静に注意することなく時速約八〇キロメートル程度で進行したところ、同図面<ウ>附近で同図面<3>附近の原告車両を認め、ロツクがかからないようにしながら最大限ブレーキをかけたが及ばず、前記の態様で衝突し、被告車両は同図面<オ>附近に転倒した。

(二) なお、原告はその本人尋問において、原告が本件交差点に進入した際の原告車両の対面信号は赤で右折可矢印が点灯していた旨の供述しており、甲二、乙二に記載から認められるように事故直後から一貫してその旨述べているものの、甲二と乙二や原告本人尋問の結果の内容とでは、他の車両の停車状況が異なる他、原告はその本人尋問で右折待機中の他の車両が三台あり、それらは、対面が青信号のうちに右折を完了したが、原告車両は、そのうちの先頭車両の左横に停止したまま右折可矢印の表示がでるまで待機していたとするものであつて、その供述内容自体不自然なものであるし、逆に、被告はその本人尋問(第一、第二回)において、被告が本件交差点に進行した際の対面信号は青色である旨供述しており、乙二に記載があるようにその点では本件事故直後から一貫していて、それらの点に、第三者であつて、その記載から本件事故発生から約二時間後に警察に通報したと認められる後藤の供述調書である乙八を併せ考えると、原告の右供述部分、甲二及び乙二は採用することができない(なお、証人石川の証言、被告本人尋問(第二回)によると、被告は、原告の息子である石川に対し、一時は曖昧な表現ながら信号については不明である旨を述べたことが窺えるが、その直後あるいは次に原告ないしその家族に会つた時点で対面信号は青である旨訂正しているものであるから、この事実をもつてしても信号についての認定は前記のとおりであるというべきである。)。

また、被告車両の速度について、被告本人は時速約六〇キロメートルで進行していた旨供述しているものの、甲九、証人石川の証言中の被告は事故当日石川に対し時速は約八〇キロメートル旨述べている部分に照らし、採用することができない(なお、被告はこの点その本人尋問において否定しているものの、第一回には速度の話をしているとし、第二回には速度の話自体していないとし、記憶に曖昧な点があり、信用できない。また、逆に、証人石川の証言については、前記のように被告が信号について青である旨の訂正をしたとする自己に不利な事実も認めているものであつて、石川が原告の息子であるという点を考慮に入れても信用性は認められる。)。

2  当裁判所の判断

前記認定の事実からすると、被告には交差点を直進する際に一切右折車両の有無、動静に注意しなかつた過失及び速度を約二〇キロメートル超過して進行した過失があり、それによつて本件事故を引き起こしたと認められる。

一方、原告も優先すべき直進車に注意せず、停止中の右折待機車両の左横から、右折進行した過失があつたので、相応の過失相殺をすべきところ、本件事故が二輪車同士の右折車と直進車の事故であること、原告には停止中の右折車両があつたのを知りながらその左横から右折進行したものであること、しかし、被告にも著しい前方不注視があつたこと、被告は約二〇キロメートル速度超過していたこと等の前記認定の事故態様に照すと、原告の過失は六割と考えるのが相当である。

3  過失相殺後の損害 一七五万九一四〇円

四  既払い控除後の損害 七九万九一四〇円

前記認定の損害額から、前記認定の既払い九六万円を控除すると、右のとおりとなる。

五  弁護士費用 一〇万円

本件訴訟の経過、認容額等からすると右をもつて相当と認める。

六  結論

よつて、原告の請求は、被告に対して、八九万九一四〇円及びこれに対する不法行為の日以後である平成三年八月五日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由がある。

(裁判官 水野有子)

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